2009年 08月 27日
『伯林蝋人形館』/皆川博子/文春文庫 |
ナチス台頭直前の1920年代ドイツ。プロイセン貴族の家に生まれ、若い士官として第一次世界大戦を戦った後、ジゴロとなったアルトゥール。帝政ロシアの上流階級に生まれたが、その後の革命のために一家でドイツに亡命したナターリャ。後にナチス党員となるフーゴー。裕福な家の次男として生まれたが職業軍人の道を選び、義勇軍として戦闘に参加した後、家を継ぎ大富豪となったユダヤ系ドイツ人のハインリヒ。薬に溺れる蝋人形師のマティアス・マイ。ベルリンでは知らぬ者のない人気歌手ツェツィリエ—。6人の運命が交差したとき、一つの物語が生まれる。
『別冊文藝春秋』誌に2005年から2006年にかけて連載され、2006年8月に単行本として刊行された作品の文庫版。
皆川さんお得意の、現実と幻想が入り交じり、読み手を翻弄する手法が存分に使われた作品。6つの物語は、それぞれが交差する時も場所も人物も少しずつずれている上、語られる"事実"すら—これまで死者とされていた人物が、次の章では当たり前のように生者といて登場するなど—齟齬があります。薬による幻覚か逃避からくる幻想か、それともそれが真実なのか。物語は錯綜し、幻惑されたまま終章へと放り込まれて、そこで運命の見えない糸を操っていたのは何かということを知らされるのです。この構成の緻密さ。素晴らしいです。また、短い文章の中で濃密に描かれた彼等の人生にも心揺さぶられました。
今回、ただ一つ後悔しているのは、解説を先に読んでしまったこと。読み始めるのがもったいなくて、いつもは最後にする解説から目を通したのです。目の端に太文字が見えたので、あ、あそこからネタばれなのねと警戒していたのですが。その前の何気ない文章の中に、"物語そのものを巡る謎"の答えが堂々と書かれていました(涙)。皆川さんのこのタイプの作品は、誰による文章(物語)なのか?というのが肝と言うか、読みどころなんですよねえ(うう)。
ただ、確かに物語としては一応の解決をみていますが、それぞれの章に対する歴史的事実を記す役割の<作者略歴>は、客観的な記述は最初の数行のみで、いつの間にか、またもう一つの物語と化していくあたり、本当にその解決が真実なのかという迷路に迷い込んでしまうのですね。
やっぱり一筋縄ではいきません。皆川さん作品は。お奨め。
『別冊文藝春秋』誌に2005年から2006年にかけて連載され、2006年8月に単行本として刊行された作品の文庫版。
皆川さんお得意の、現実と幻想が入り交じり、読み手を翻弄する手法が存分に使われた作品。6つの物語は、それぞれが交差する時も場所も人物も少しずつずれている上、語られる"事実"すら—これまで死者とされていた人物が、次の章では当たり前のように生者といて登場するなど—齟齬があります。薬による幻覚か逃避からくる幻想か、それともそれが真実なのか。物語は錯綜し、幻惑されたまま終章へと放り込まれて、そこで運命の見えない糸を操っていたのは何かということを知らされるのです。この構成の緻密さ。素晴らしいです。また、短い文章の中で濃密に描かれた彼等の人生にも心揺さぶられました。
今回、ただ一つ後悔しているのは、解説を先に読んでしまったこと。読み始めるのがもったいなくて、いつもは最後にする解説から目を通したのです。目の端に太文字が見えたので、あ、あそこからネタばれなのねと警戒していたのですが。その前の何気ない文章の中に、"物語そのものを巡る謎"の答えが堂々と書かれていました(涙)。皆川さんのこのタイプの作品は、誰による文章(物語)なのか?というのが肝と言うか、読みどころなんですよねえ(うう)。
ただ、確かに物語としては一応の解決をみていますが、それぞれの章に対する歴史的事実を記す役割の<作者略歴>は、客観的な記述は最初の数行のみで、いつの間にか、またもう一つの物語と化していくあたり、本当にその解決が真実なのかという迷路に迷い込んでしまうのですね。
やっぱり一筋縄ではいきません。皆川さん作品は。お奨め。
タイトル : 出だしがきつい:伯林蝋人形館
伯林蝋人形館 (文春文庫)作者: 皆川 博子出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2009/08/04メディア: 文庫 第二次大戦前夜のドイツを舞台にした、連作短篇形式のミステリ。 ミステリとしては、十分なレベルなのだが、人を選びそうな作品。 ...more
伯林蝋人形館 (文春文庫)作者: 皆川 博子出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2009/08/04メディア: 文庫 第二次大戦前夜のドイツを舞台にした、連作短篇形式のミステリ。 ミステリとしては、十分なレベルなのだが、人を選びそうな作品。 ...more

